ために、それは、妻という形式ででも、妹という形式ででも、または他人の形式ででも、そんなことはかまわない。只彼女が生きてさえくれたら……。そして自分は働こう。
壮助は、凡てが光子の生命という一点から発して来たのであることを見た。そして凡てが今またその一点に落ちていった。生命を愛することがそんなにつらいことなのか?……野には樹の梢から、黒い土地から、青い芽が萠え出ている。
壮助は立ち上った。彼の心には、只一筋の細い糸に縋ってじっと震えているような光子の生が映じた。そしてその露わな眼が大きく静かに開かれていた。「光子!」彼はまた心にそう叫んだ。
底本:「豊島与志雄著作集 第一巻(小説1[#「1」はローマ数字、1−13−21])」未来社
1967(昭和42)年6月20日第1刷発行
初出:「文章世界」
1917(大正6)年4月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:松永正敏
2008年10月14日作成
青空文庫作成ファイル:
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