正覚坊
豊島与志雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)正覚坊《しょうかくぼう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)若い時|荒海《あらうみ》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)奴《やつ》[#ルビの「やつ」は底本では「ゆつ」]だ
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 正覚坊《しょうかくぼう》というのは、海にいる大きな亀《かめ》のことです。地引網《じびきあみ》を引く時に、どうかするとこの亀が網にはいってくることがあります。すると漁夫《りょうし》達は、それを正覚坊がかかったと言って大騒ぎをします。正覚坊が網にかかるときっと大漁がある、と言われているのです。漁夫達は皆集まって正覚坊をとり巻き、近所の家から酒をたくさん取り寄せて、それを正覚坊に飲ませます。正覚坊は酒が好きです。頭が赤くなるほど酒のごちそうになって、それから海に放されます。うれしそうに頭を打ち振りながら、波の上を沖の方へ泳いで行きます。漁夫達はその姿を見送って、残りの酒を皆で飲みながら、大漁節というおもしろい歌を歌ったりなんかして、次の大漁を祝います。
 そういう正覚坊について、おも
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