、その当面の主体たる人物性格によって、一種の歪曲をなす。またこの歪曲を辿る時には、その人物性格につき当る。この条理を明確に認識する作家は、芸術的構成の真諦を解するものと云ってよいだろう。
*
其他、まだ云わねばならぬ事柄があるけれど、時間不足のためにこれで止める。
近代の文学は、個人の精神内部に、識域下に、広い領土を発見した。また、階級という観念のなかに、広い領土を発見した。そして前者の新らしい心理描写――行為の説明のための心理解剖ではない――の文学が、性格を軽視すると共に、後者の結局は権力をめざす階級闘争――真の社会革命のための闘争ではない――の文学も、性格を軽視する。これは自然の勢であろう。これに対抗して、性格を重視することが、文芸を貧困から救う一つの途であることを、一言附加しておきたい。
底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社
1967(昭和42)年11月10日第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2006年4月24日作成
青空文庫作成ファイル:
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