言った。
「上海では、僕はどうも異邦人のなかにいる感じだ。君の方が、上海に落着きがいいようだね。」
「まあそうも言えるね。」と私は微笑した。
それから私は真面目に言った。
「無錫に帰るのかい。」
「そうするつもりだ。此処では、なにかと邪魔が多くて、本当の仕事が出来ない。」
「上海の憂愁だね。」
「星野君の言い草じゃないが、詩を書くといいかも知れないよ。」
「うむ、そんな気もしてきた。」
それからまた私達は無言になった。やがて、言い合したように立ち上った。老酒と無錫料理とへ赴こうというのである。
底本:「豊島与志雄著作集 第四巻(小説4[#「4」はローマ数字、1−13−24])」未来社
1965(昭和40)年6月25日第1刷発行
初出:「文芸」
1944(昭和19)年11月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2006年4月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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