秦の憂愁
豊島与志雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)老酒《ラオチュウ》
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(例)小説4[#「4」はローマ数字、1−13−24]
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星野武夫が上海に来て、中国人のうちで最も逢いたいと思ったのは秦啓源であった。だが秦啓源は、謂わば上海の市中に潜居してるもののようで、その消息がよく分らなかった。
星野は中日文化協会の人に頼んだ。
協会の人は頭をかしげた。
「秦啓源氏のことは、よく分りませんが、早速取調べて、何とか連絡をつけましょう。」
それが、幾日待っても、音沙汰なかった。
星野は大陸新報の人にも頼んだ。
新報の人はちょっと考えた。
「秦啓源……名前は知っていますが、よく分りませんね。聞き合せてみましょう。」
それが、やはり、いつまでも音沙汰なかった。
それから、星野は、日本軍特務機関の嘱託になってる某氏にも、頼んでみた。
某氏は事もなげに引受けてくれた。
「秦啓源ですか、よく知っていますよ。すぐに逢うよ
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