情は、硬直か緊張か見分けのつかない状態のうちに凝り固まった。医者のことを言われると、はっと眼が覚めたように執拗に拒絶した。晩になっても同じ有様で、その夜更け、彼女は秦の手先に縋っていたが、その手の力が俄にゆるむと、ごく静かに、殆んど苦悶もなく、息絶えてしまった。――この柳丹永のことについては、いつか、心静かに私は語りたいと思う。
 パレス・ホテルの一室で、私は丹永のことを思い浮べていた。陳振東が秦になにか言うと、秦は微笑して私に言った。
「陳君は、大西路の家に帰れと僕に勧めているんだ。」
「勿論、そうしなくてはいけないよ。」と私は答えた。
「あちらに帰ると、上海が薄らぐ。もう一晩、上海を楽しんでもよかろう。」
 それにはなにか皮肉な残忍なものが籠っていた。私はそのものから眼をそらして、陳振東に話しかけた――以下の対話は、秦が中間で通訳してくれたものである。
「陳君は、上海をどう思いますか。」
「下らないが面白いと思います。」
「というと、人間の低俗さとそれに対する興味ですか。」
「少し違います。……まあ、腐りかけた牛肉の旨さですね。」
 見たところ平凡でただ強健な彼は、明晰な見解を具え
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