の頃、青※[#「邦/巾」、第4水準2−8−86]の頭目としては朱鵬がいて、洪正敏は全く隠退し、表向きに顔を出すことはなかったが、然しその潜勢力は朱鵬を凌ぐものがあると言われていた。
私が珈琲をすすってる間に、秦は陳振東と数語を交わし、陳振東は私の方に鄭重な辞儀をして、外へ出て行った。
「凡て済んだよ。」と秦は晴れやかに言った。
私は洪正敏との面会の模様を聞きたかった。秦は何一つ隠そうとしなかった。打明けて話すのが楽しそうでもあった。――珈琲をすすり、煙草をふかし、それから、ごたごた散らかってる室に行って、支那服を背広と着かえ、わざと時間をつぶし、少し後れめに上階の食堂へ行き、食事をしたのだが、その間に彼は断片的に話した。
その断片的なものを、茲に綴り合してみよう。
はじめ、洪正敏が逢ってくれるかどうかが危ぶまれた。然し秦は是非とも彼に面会する必要を感じた。朱鵬などは問題でなく、洪正敏でなければいけなかった。
「僕の見解は正しかった。りっぱな人物だ。」と秦は言った。
彼は使をやって面会を求めた。明日の午後二時に……との応諾だった。
彼は支那服をまとい、自動車に乗り、陳振東を連
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