ろうとする。が、それがやはり夢現である。頭の一部がしびれて、そこが大きくふくれ上り、千斤の重みの綿みたいな感じになる。ふわりとしていて、不可抗力的に重い。その中へ、かすかな意識が引きずりこまれてゆく。
身動き一つすることが出来ない。息苦しくなる。眼には見えないが、そこらに眠ってる人数《ひとかず》が幾何級数的に殖えてゆく。その無数の口から吐き出される息が、積り積って、なま温くのしかかってくる。穢らわしい擽ったい感触である。いつまでも動かない……。
その感触がどこか遠くで、粘りっこい笑い方をしている。お梅だ。手の皮膚のざらざらした、土くさい、力強いぼってりした腕で、じりじり緊めつけてくる……。
そこで和田弁太郎は眼を覚す。ぐっしょり汗をかいている。が、室内の空気も同じように汗をかいている。どんな不潔なものにもいきなりしゃぶりつきそうな、面皰顔の唇の厚い口、その六つの口から吐き出される息が、濛々と立罩めている。櫺子窓からさす廊下の明りがぼーっと曇っている。
そうなると益々眠れなくなる。何かしら汚い赤黒いものが、身体中にのたうち廻っている。
そして和田弁太郎は屡々寝室をぬけ出すのであ
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