「今日はばかに賑かだね。何か嬉しいことでもあるらしいね。」
「ええ……。」
 言葉尻を濁してから、喜代子はふいに真面目な顔付になった。二つも三つも年が上のようになった。
「あたし……叔母さまが生きていらっしゃるとほんとにいいんだけれど……。」
「え、叔母さまが……。」
 中野さんはびくりとして、喜代子の顔をみつめた。
「だけどいいわ。本当はお話があるんですの。叱らないで頂戴ね。」
「何を云うんだい、だしぬけに。叱りはなんかしないから、話があるなら云ってごらん。」
「今じゃないの。も少したってから……。」
 伏せてた顔をふいに挙げて、じいっと見入ってきたその眼が、黒水晶のように底光りしていた。中野さんはまたびくりとして、一寸口を利きかねた。その間に、喜代子は黙って向うへ行ってしまった。
 子供達はまた一しきりはしゃぎ続けていた。それが次第に静まっていった。
「どうしたの、喜代子さん。いやな人ね、考え込んでばかりいて。」
 云ってるのは年上の娘の静子だった。
 その静子が、後で中野さんにこんなことを云った。
「可笑しいわ、喜代子さんは。ふいに騒ぎだしたり、また黙り込んだりして、眼に一杯涙
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