のである。「この室に代って、大変気持がいいんですのよ。あちらに寝てると、今にも死にそうな気がして……。だって、屹度あの通りの寝方で死んでいった人があるに違いありません。」
考えてみると、そういう五六室の家では、病人は屹度あの室にああいう位置に寝るに違いない。そしてその古い貸家では、幾人か病人も出来たことだろうし、そのうちには、あの位置で死んでいった人もあるに違いない。それをふと、神経質な彼女は自分の身に感じだして、堪まらなくなったのであろう。
想像上の条件反射ということがあり得るならば、自我主義の潔癖な彼女は、或は、生きながら死を経験したかも知れない。
底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社
1967(昭和42)年11月10日第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2006年4月22日作成
青空文庫作成ファイル:
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