湛えて、水平線の彼方の沖から、冷かな微風が渡ってくる。その微風の方へ、渚の漣の音楽に耳を貸しながら、私達は眼をやっていた。そのまま肉体が融け初めて、精神が地上のものを運びつつ、虚空へ大きく拡がりゆく気配……。その時ふと、私達は眼を見合った。「幸福を地上に……。」と――私達はその瞬間不幸ではなかったが――互の眼が囁く、私は君の心を求め、君は私の心を求めて……。あの瞬間を、恋人よ、忘れないようにしようではないか。
情意の深淵を、私は想う。
底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社
1967(昭和42)年11月10日第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2006年4月24日作成
2008年9月17日修正
青空文庫作成ファイル:
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