した。薄の穂がまばらに突き立ってる野原が、あちこちにありました。
肌寒い思いで、草履の足を引きずって、尋ねあるきましたが、それらしい家は見当りませんでした。
「たしかにこの辺でしたの。」
「そう思いますけど……。」
心許ない短い問答きりで、二人はあまり口を利きませんでした。
人の住んでいそうもない、静まり返った家ばかりで、通りがかりの人影も見えませんでした。
二人は町筋に引き返しました。荒物屋、煙草屋、それから蕎麦屋と、三軒に尋ねてみました――。小川加代子というひと、歌沢の師匠をしている寅香というひと、少女を使って静かに住んでる若い女のひと……。
それを、どこでも、誰も、一向に知りませんでした。こんな田舎では、どんな些細なことでも皆に知れ渡ってる筈なのに、彼女のことについては、何の手懸りもありませんでした。
「おかしいわね。」
「ほんとに……。」
二人はまた、ぼんやり沼の方へ行ってみました。そして水際まで降りてゆきました。冷たい風が、間をおいて、水面を渡ってきますきりで、人影も物音もなく、小鳥の声さえ聞えませんでした。
「どうしたんでしょうね。」
と八重子は呟きました。
前へ
次へ
全17ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング