んと揃えて、五十銭銀貨を差出した。
「まさご町……。」
そして、車掌から渡された、切符を右手に、つり銭は、紐のついた赤い小さな金入と一緒に、左手に握って、肩を斜めに、首をねじって、窓から外を見てるのである。
その利発そうな顔、柔かな白い皮膚、支那めいた服装を、夕日が赤く反映で染めて……。
杉本は、やさしい眼付をその少女から離さなかった。せめて、つり銭をあの金入に入れてやるくらいの親切が……と一種の公憤を、疲れてぐったりしてる女車掌の背中に投げながら、それとは全く別な、少女の可憐な姿を見守った。
停留場を二つ過ぎて、真砂町になると、少女はすぐに、切符を渡して、金と金入とを片手に握ったまま、車掌の機械的な掌に送られて、バスから降りた。
杉本も慌てて立上って、降りた。
電車通りを少し、それから左へ横丁……。手を振り振り、飛びはねるように歩いてゆく、少女の後から、のっそりした杉本の姿が、ついていった……。
三
軽く、形式だけのノックをして、扉を開いてはいって行くと、待ち受けてたらしい英子の顔と、ばったり出逢った。尋ねるまでもなく、見合せた眼色で、互に、何か変ったこと
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