を待つのだった。
そのバスに乗った或る時――
昼間の散歩の帰りで、没しかねてる夕日に、慌しい街路がぱっと照らされていた。そういう時刻に、時折、妙にすいたバスが通ることがある――一寸息をついたという形で。不安なせかせかした夕方の、ひと時の隙間なのだ。
杉本は一層茫漠たる様子で、五六人の乗客を、ぼんやり眺めていた。
「……頼みますよ。」
声に気がついた時、バスは上野広小路から、切通下で一寸|停《とま》ったのが、もう動きだしていた。車外に、白シャツ半ズボンの、商店の若者らしいのが、ちらりと見えた。
田舎の街道を走る、自動車や馬車や電車などには、殊に夕方など、私用の伝言や品物を車掌に頼むのが、よくある。頼む方でも頼まれる方でも、無償で、親しげに笑っている……。
その、ちらと頭に沈んだ印象に、杉本はうっすらと微笑みかけたが、見ると、女車掌の習慣的な掌で背を支えられて、五六歳の女の子が、ひょいと、入口近くの席に坐った。
おかっぱの、しなやかな髪。怜悧にませて見える、整った顔立。金と黄との、胴のつまった上衣。桃色の短いスカート白の靴下。リボンのついた可愛いい黒靴……。宙にういた足をきち
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