輔の口添があったのは勿論である。
 有吉は軍服をすてて、背広にかえた。頭髪を伸して、代りに、口髭を短く刈りこんだ。
 その頃、杉本はもう上海に行っていた……。その断片的な消息を、有吉は警視庁の内部から得た。
「彼奴《あいつ》……。」
 そう独語しながら、有吉は、やはり憎悪の念を持ち得ないのである。――



底本:「豊島与志雄著作集 第三巻(小説3[#「3」はローマ数字、1−13−23])」未来社
   1966(昭和41)年8月10日第1刷発行
初出:「中央公論」
   1929(昭和4)年9月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2008年1月20日作成
青空文庫作成ファイル:
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