しなやかな白い指先に、やさしく戯れて、編台の上に、留針に刺されながら、単調だが微笑ましい模様を、形づくってゆく……。
それにも倦きると、彼女は、リリアンの長い一筋を取って、その切口の、細かな絹糸が無数に乱れてる中の、一つを探りあて、すーと引張る。組糸がほぐれて、長く伸びて……。屈托が晴れてゆくような感じだ。ほぐれた絹糸は、綯りの力で、縮れてぼけて、ふうわりと、綿のように……。それを彼女は、掌で柔かく円める……。新鮮な色彩の入り乱れた、宙に浮きそうな絹糸の球が、次第に大きくなってゆく……。その子供らしい、何か底に熱をもった、無邪気な遊びに、英子は眼を光らしていた。
杉本と小林との対話は、落付いた足取りで進んでゆく……。
四
有吉が杉本を訪れてきたのは、晩、英子がカフェーに出て不在の時だった。
杉本は物を書いていた。そういう時の癖で、書き損じの原稿紙を、机の左右に散らかしていた。それを無雑作に、室の片隅に払いやって、彼は有吉を迎えた。
有吉は和服の着流しであったが、当時まだ現役で、短く刈った頭髪と長い口髭、外気に曝された皮膚、軍帽に練えられた額の肉附、じかに露骨に対
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