日焼けのした、にこにこした顔が、そっと覗いた。
「お邪魔じゃありませんか。」
「やあ、はいれよ。」
 杉本の眼は、いつもより、急にやさしく輝きだして、小林を迎えた。
 隣室に、二人の大学生と一緒に住んでる、年の若い自由労働者だった。一日働いて疲れきっても、仕事にあぶれて時間をもてあましても、平気でいた。金はないか、と大学生から云われると、持ってるだけのものをすぐ出してやった。大学生が外をぶらついて、自分は仕事がなくて、困りきっても、平気で水ばかり飲んでいた。余り腹がすくと、飯を一杯食わしてくれと、杉本のところへやって来て、二三度分を一度に平らげて、けろりとして、親方のところへ、仕事を貰いに出かけていった。勉強しなくちゃ駄目だ……というので、杉本の書物を借りていった。日々の簡単な手記を、杉本に添削して貰った。
 その一種の日記……二枚の紙を、小林は杉本の方へ差出した。
「これ、今日んです。」
「ほう、早いね。」
「今日は、つまらない仕事なんで……。」
 だが顔付では、別につまらなくもなかったような……その様子を、杉本は、頭から足先まで一度に抱き取る眼付で、じっと見ながら、前日の、赤字で一
前へ 次へ
全40ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング