やはり、女給なんかに出てるのを、あなたは嫌なんでしょう。あたしも嫌。……だと云って、どうすればいいの、働くことがいいんだ! 何をして働いたらいいの……。そんなこと、頭がくしゃくしゃしちゃったわ。自分で考えるわけじゃないけれど、いろんなことが、変に……。」
 どこか甘えたような、笑いをさえ含んだ調子で、彼女は口を利いていた。頭と心とがちぐはぐになってるような様子だった。その顔を、彼は見守りながら、底にあるものを探りあてようとした。
「何か、何かあったのか。」
「…………」
 暫く、眼を見合って、ふいに、彼女は快活に叫んだ。
「あれがいけないんだわ。」
「何?」
「軍人……将校よ、立派な。襟に赤と、肩に金線の、軍服をきて、サーベルの音をさして……。あたし、帽子をぬいで、丁寧にお辞儀をされて……びっくりしちゃった。」
「誰だい。」
「……アリヨシ……。」
「え、有吉……有吉が来たのか。」
「知っていらっしゃるの。アリヨシと、そう云えば分るって……。そしてまた、丁寧にお辞儀をして……。あの人、なあに?」
「少佐になったばかりの、なかなかやりてだ。何か云っていったのか。」
「何にも。ただ、また来
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