を思っている証拠だ。
二
銀座通りはおかしなところで、夜の十一時頃からがらりと様子が変る。今まで賑やかで華やかで浮々していたのが、すーっと陰にこもってくる。饗宴の室に一時に防音装置をしたような……顔の紅や白粉を俄に洗い落したような……笑ってる最中に歯が一枚ぬけ落ちたようなものである。戸を閉めた商店の間々に、まだ戸の開いてるのはしいんと静まり返り、歩道の夜店はしまいかけている。なお人通りはあるが、どの顔も佗しげで、兇悪の相さえ帯びている。享楽の滓が幽鬼となって、そこいらの物影にひそんででもいるのだろうか。
そういうところを歩くのは、殊に微酔をおびて歩くのは、悪くはない。私は好きだ。けれど彼女は、どうしたのか、へんに慴えてるようだ。慴えてるだけならよいが、なんだか寒そうで、貧相で、見すぼらしい。その敏活な清い眼は、もう凍りついて動かない。そのふくよかな色艶は、もう皮膚の下に沈みこんでいる。そのやさしい香りは、もう消え失せてしまっている。そして肩をすぼめ、身体を硬ばらして、とっとっと足早に歩く。時々、急に寄りそってくるし、またつと離れる。勿論口など利かない。そうなってくる
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