「敏子がいましたので、黙っておりましたけれど……。」
 しばらく後がとぎれた。
「一昨日、柿沼さんが見えまして、ほんの玄関先だけのことでしたが、千代乃さんが来たら、至急逢いたいことがあると伝えてくれと、それだけのお話でした。時間はとらせない、場所はどこでもよいと、たったそれだけでしたが……。」
 久恵はまた長谷川の顔をすかし見た。
「千代乃さんは、ほんとにまたこちらへ出て来るんでしょうか。」
 長谷川は腕を組んだ。
「柿沼さんの話は、それだけのことですか。」
「それきりですよ。なんだか、お急ぎのようで、立ったまま、すぐに帰っていかれました。」
「そうですか。なにか用が出来たんでしょう。千代乃さんが来たら、伝えておあげなさいよ。」
 久恵はまだあとあとを待つように、じっとしていた。長谷川は突然言った。
「たったそれだけのこと、敏子さんの前で、どうしていけないんです。」
「いけないことはありませんが、あの子、なんでも饒舌ってしまいますんでねえ、千代乃さんにでも誰にでも……。」
「それでいいですよ。御心配いりません。大丈夫です。」
 久恵と別れて、長谷川は独り、大丈夫、大丈夫、と胸の中で繰り
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