閑張の円卓に、茶菓が出されてるが、久恵は長谷川にすすめようともせず、ただにこやかに坐っていた。
「あ、こちらの、紫の方がいいかも知れないよ。」
人形の布を、久恵は指図し、それを敏子は素直にきいて、裁ち布をかき廻すのだった。髪にパーマをかけてはいるが、和服に着換えて、膝をきちんと坐っていた。
彼女がデパートでどんな様子をしてるか、長谷川は見に行きたく思ったこともあるが、未だに差し控えている。明朗でそしておとなしそうな彼女を、長谷川は好きだった。
「敏子さん、いっそデパートなんかやめちゃって、人形の方を専門にしないかね。お母さんも、針仕事やミシンをやめて、人形の衣裳だけにかかるんですな。そしたら、僕が大いに宣伝して、売り出してみせますよ。」
「だって、人形だけじゃあ、退屈でしょう。」と敏子が応じた。
「退屈……どうして。」
「朝から晩まで、坐りどおしで、人形ばかり拵えるんでしょう。」
「いや、そんなにきちんと坐っていなくったって、腰掛けても出来るよ。」
「拵えるだけなの。」
「そりゃあね、専門家だもの。」
「拵えるだけじゃあ、退屈よ、きっと。」
「それでは、どうすればいいんだい。」
「
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