南花の茂みの中に、鳥らしいものがひそんでいる。鶏か鳶か鷹か、とにかく大きなやつで、地面に頭を突っ込むようにしている。それが、いつまでもじっと動かない。何かを食おうとしているのであろうか。何かに捕えられているのであろうか。身動きをしない。
 長谷川は急いで降りてゆき、玄関の下駄をつっかけて、見に行ってみた。側で見ると、思ったほど大きくはなく、普通の山鳩で、頭をぐったり地面に押しつけ、横倒しになっている。死んでるのだ。褐色の羽子に雨滴がたまっている。
 その山鳩の足先に、長谷川は手を差し伸べた。濡れた死体は硬ばっていて、ぶらさげても、びくともしなかった。ぶらさげて、さてどうしようかと、長谷川は迷った。
「山鳩のようですね。」
 縁側から声がした。頭髪を五分刈りにした男がそこに立っていた。長谷川は前に見かけたことがあるので、柿沼治郎だと分った。
「死んでいますね。その辺に置いといて下さい。あとで片付けさせましょう。」
 全く無関心な、冷やかな調子だった。
 長谷川は山鳩の死体を庭石の上に置き、手を打ち払い、本能的に煙草を浴衣の袂にさぐったが、無かった。
 柿沼は縁側に煙草盆を持ち出した。

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