。奇蹟は、運命の転廻を意味する。それをためしてみたのである。
「あなたを、相手に選んだこと、御免なさい。」
 口では御免なさいと言いながら、少しもあやまってる風はなかった。
「そして、ためした結果は、どうなんです。」
「まだ、ためしただけで、あとのことは、待ってるだけですの。」
 そうなると、これはもうはたから窺※[#「穴かんむり/兪」、第4水準2−83−17]すべからざる事柄だ。
 長谷川は最後の反撥を試みた。
「それにしても、あなたはいいましたよ、あまり深く想ってはいけないと。そのことも、僕ははっきり覚えています。」
 千代乃は黙っていた。
「僕も、もう三十五にもなるし、多少の分別はあります。あなたの迷惑になるようなことはしません。然し、深く想おうと、浅く想おうと、それは僕の自由にさしといて下すっても、いいでしょう。」
「いいえ、違いますの。そんなことじゃありません。」
「では、どういうことですか。」
「わたし自分のことなの。」
「僕は、僕の方のことを言ってるんですが……。」
「違います。わたしのことよ……分らないの?」
 ふいに、片手を差しのべ、彼を打つまねをしかけたが、とたんに
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