かしな奴だ。そして朝食の時には、女中たちと一緒に食べるんだといってきかない。お惣菜の都合があるからと女中に説かれて、漸く島村と一緒の食卓に坐ったものだ。
「朝っぱらから……困るじゃないですか。」
「だって、あたし、働くのが嬉しいんですもの。でも、先生んとこ、どこも綺麗ね。」
昨晩とは、また言葉の調子がちがっている。だが、それが自然だった。朝日の明るみで見るせいばかりでなく、彼女は晴れやかな顔をしている。濃い眉毛が健康そうだ。眼の奥には、もう思想の影はない。まるい頬の脹らみに、口が小さい。鼻の下の上唇のみぞが深く切れて、それが大きな目玉と共に、子供っぽく無邪気にも見えれば、また、何だか不幸な運命を表徴するようにも見えるのだ。
「先生んとこに、一週間ばかり置いて下さらない? ちゃんとした家庭で、少し働いてみたいから。」
「主婦のない家庭でも、そう見えるかしら。」
「そんなら、半端な家庭でもいいわ。ほんとに、働いてみたいの。」
「まあ、気まぐれは、よすんですね。ただいるんなら、四五日ぐらい構わないけれど……方々かきまわされちゃあ、こっちから御免だ。」
「大丈夫よ、あたし、女中さんたちの指図
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