。新聞を見ても分る通り、人殺しが多すぎるし、自殺者が多すぎる。そりゃあ固より、御本人の自由です。僕としては、死にたければ死ぬがいいし、生きていたければ生きてるがいいと、そう思ってますよ。ところが、一つ自由にならないことがある。生きるも死ぬも自由なくせに、つまらないことが自由にならない。例えば酒を飲むのも飲まないのも自由になったら、僕はもう安心して、おばさんみたいに肥りますよ。」
「だって、内山さん、お酒をあがるのもあがらないのも、あなたの御自由じゃありませんか。」
「ちょっと違うな。それが、自由じゃないんですよ。ねえ、朋子さん、自由じゃないでしょう。」
「そうですね、飲むのは自由でも、飲まないのは自由でないようですね。だから、意志薄弱……。」
「それから、高血圧……。だけど僕は断じて病気では死にませんよ。」
 朋子はやさしい眼つきで内山を見守った。
「なにか召上りますか。お鮨でも取りましょうか。」
 内山は頷いた。娘さんが出前のためいなかったので、朋子は自分で出かけて行った。
 内山は顔を伏せたまま言った。
「おばさん、いつも勝手ばかり言って済みません。朋子さんにも済まない。けれど、僕
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