続し、裏の松林の中には、晴れやかな小鳥の声が響いていた。
霧は間もなく空中に消え去って、沼の彼方の砂浜には、海鳥の群が舞い飛んでいた。六弥が云った通りに、今日もやはり大漁らしい。方々で、地引網の曳子を呼び集める喇叭が鳴っている。
青々とした空と海、澄みきった日の光、その間を爽かな凉風が、葦の穂先を撫でながら、遠い沖から裏の松林の懐へ、軽快に吹き込んでゆく。単衣一枚に肌寒い思いをしながら、私はいつまでもぼんやりしていた。六弥が云ったように、暴風雨が襲来して庭先まで波頭が来る日まで、ここに滞在していようかなどと、頭の遠い奥で考えながら、また、そういう時にでもならなければ、大儀な身体を動かせそうにもないと、胸の遠い奥で感じながら、人気のない旅館の縁側で、半身を初秋の日に曝していた。
底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社
1967(昭和42)年11月10日第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2006年5月1日作成
青空文庫作成ファイル:
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