初秋海浜記
豊島与志雄
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)夢現《ゆめうつつ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)跛を[#「跛を」は底本では「跋を」]ひきひき、
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
仕事をするつもりで九十九里の海岸に来て、沼や川や磯を毎日飛び廻ってるうちに、頭が潮風にふやけてしまって、仕事はなかなかはかどらず、さりとて東京へ帰る気もしないで、一日一日をぼんやり過してるうちに、もういつしか初秋になっていた。
潮風に頭のふやけた気持は、丁度軽い熱が発したのに似ている。夏の太陽の直射と温風とに、皮膚が赤黒く焼かれると、そのひりひりした熱っぽい感じが、筋肉の内部にまで浸み透って、身体中が熱いぽってりとした重みで意識される。頭もやはり同じである。何とのう頭脳のしんの方が熱っぽく、重くどんよりと濁り淀んで、一切の冴えと敏活さとを失ってしまう。
そういうところに、ふいと初秋の気が感じて、私は眼覚めたような心地になった。初めはただ、葦の茂みをさらさら
次へ
全9ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング