十一谷義三郎を語る
豊島与志雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)脂《やに》
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十一谷君とは大正十年以來の交誼を得ていたが、その間の十一谷君と切り離せないものは、碁、麻雀、煙草、古い反故るい……。
十一谷君が同人雑誌「行路」の一員だった頃、やはりその同人の一人だった三宅幾三郎君と、私はよく碁をうって、遂に十一谷君をも碁道に引入れてしまった。其後十一谷君の進歩著しく、私たちと互先の手合になり、顔を見れば早速碁盤を持出す始末で、十年前、二人とも急な仕事をもって熱海に行った時など、一週間、原稿は一枚も書かずに碁をうってばかりいたことがある。川端康成君、故直木三十五君なども、碁の仲間だったが、十一谷君と最も番数多く碁をうったのは、住所が近かったせいか、恐らく私であろう。十一谷君の碁は堅実、私の碁は大雑把で、棋風は異っていたが、勝負の数は互角だった。先年、十一谷君が逗子に引込む時、また碁をかみながら、「結局勝負なしで、長年一局の碁をうち続けてきたようなものだ。」と笑ったことがあった。
近年、十一谷君は麻雀にもひどくこりだして、碁と同様、そのために夜を徹す
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