俺が……これから依子の運命を護ってやろう、と彼は心の中でくり返した。
 然し依子の日常は、殆んど幾代と兼子との手中に在った。彼は傍からただじっと、依子の姿を見守るの外はなかった。彼は殊に依子の膝のない坐り姿を好んだ。膝がすっかりエプロンの下に隠れてしまって、遠くで見ると胴体だけで坐ってるかのようだった。彼は近づいていって、坐ったままの彼女を抱き上げた。彼女は足と手とを伸そうと※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]いた。小鳥のようにこまこました運動が彼の腕に感ぜられた。
「あら、まあー!」と兼子は或る時叫んだ。彼女は坐ってる依子のエプロンをめくっていた。依子は小さな足できちんと胡坐《あぐら》をかいていた。「この子は胡坐をかいて坐っていますよ」
 依子は兼子の顔を見、それから彼の顔を見ていたが、つと立ち上って室の隅っこに逃げてゆき、くるりと向うを向いたまま、いつまでもじっと佇んでいた。兼子はそれを抱いてきた。
「極り塞がってるのね。胡坐をかいてもよござんすよ。可愛いあんよね」と兼子は云った。「さあお坐りしてごらんなさい。」
 依子は両膝をきちんと揃えて坐った。いつまでも黙っていた。
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