いた。彼は変な気がした。何だか家の中の様子が違ったように思われた。顔を洗う時、やたらに頭へ水を浴せた。
 敏子は朝早く帰っていったそうだった。
「そうですか。」
 彼は簡単に幾代へ答えた。そして何にも尋ねなかった。幾代もそれ以上何とも云わなかった。
 依子は別に母親を探し求める風もなかった。幾代や兼子や女中達と面白そうに遊んでいた。玩具に倦きると庭に出た。庭に倦きると表へ出た。そしてまた玩具の所へ戻ってきた。も少し馴染むまでは遠くへ連れていってはいけない、と幾代は云った。その幾代を、依子は「お祖母《ばあ》ちゃま」と呼んでいた。兼子を「お母《かあ》ちゃま」と呼んでいた。
 そういう依子を、彼は不思議そうにわきから眺めた。これが自分の子かと思うと変な気がした。「あなたによく似ていますわ。」と兼子はくり返して云った。
 遠くから見ると、大きい眼と口とだけが著しく目立った。近くから見ると、髪の毛に半ば隠れてる広い額と短い※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]とが、何となく不平衡な感じを与えた。短い※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]の下に、更に短い首があって、すぐにいかつい肩へ続いて
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