は座敷の中で火をたいて湯が沸せるような、小さな世帯道具まであった。「火を弄《いじ》らせるのは危ないから止しましょう、」と幾代は云った。第二は遊覧場所だった。公園、動物園、植物園、観音様、郊外の野原……地図の上に赤鉛筆で印がつけられた。活動や寄席は小さな子にはどうだろうか、それが問題として残っていた。第三には着物のことだった。余り贅沢をさせてはいけないということに、二人の意見は一致した。けれど地色や柄は、子供の顔立に似合うものでなければならなかった。それには肝腎の顔立がよく分らなかった。幾代は子供を見た時の印象を、出来るだけ細かく思い浮べようとした……。
「そんな計画ばかりしてどうするんです?」と彼は云った。
「でもねえ、前からきめて置きませんと……。」と幾代は答えた。
「然しまだ返事がないじゃありませんか。もし断ってきたらどうします?」
「そんな筈はありませんよ。」
「もう約束の四五日になっていますよ。」
「それは約束は約束ですけれど、向うだってそう急にはきめかねるでしょうよ。少しは向うの身になっても考えてやりませんではね。猫の仔一匹やりとりするのでも……。」
「犬猫の仔とは違います!
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