の広間があった。舞台めいた高壇には、二抱えほどもある自然木の巨大な柱が四方に立っていた。その広間の真中に寝そべって、高い天井を仰いでいると、森の中にいるよりは一層淋しく、心許無い気持ちになった。人事の幽鬼の影がさしてくるからだったろうか。
 なにか、暴風雨とか激しい雷鳴とか、天地を揺ぶるようなものを、田宮は待ち望んだ。然し、穏かな日が続いた。
 時とすると、空の半面を黒雲が蔽うこともあった。湖畔に出て様子を窺ったが、いつも当が外れた。黒雲は燕巣山の方面から四郎岳の方面にかけて屯していたが、風は反対の方から吹き、徐々に晴れていった。
 湖面に吹きつける風は、長い息をついた。さーっと波頭を立てておいて、すぐに静まり、暫く間を置いて、思いがけない時にまたさーっと来た。方向も一定せず、右からも吹き左からも吹いた。水面の波頭がぶつかり合って渦巻くこともあった。
 そういう渦巻きの中に、どこから舞い落ちたか、一枚の黄ばんだ木の葉が浮いていた。ゆるく廻り、また静止し、また廻り、いつとなく沖の方へ吹きやられていった。それを田宮はじっと眺めていたが、次第に小さくなり見えなくなる頃になって、はっと心を打た
前へ 次へ
全23ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング