ょうか。でも実は、あたしたち自身、お友だちなんかもみな、昔とは違った考え方をしておりますし……。」
 それはつまり、親と子の関係、殊に母親と子の関係についてだった。子供というものは、育て上げて結婚させてしまえば、もう母親のものではなくなる。息子は嫁のものになってしまうし、娘は夫のものになってしまう。後々までの頼りにはならない。頼りになるのはただ自分だけだ……。
 それはそれでよいし、寧ろ当然なのだ、と田宮は思った。それにしても、境遇により、家庭の事情によって、五十を過ぎてから、六十や七十にもなって、よその家の女中働きに出なければならないというのは、惨めなことに違いなかった。KさんやNさんやFさんや、その他の婆さんたちの姿が、眼に浮んだ。
 原始林の中をさまよっても、そこには齷齪したトラブルは少しもなかった。伸び茂るもの、立ち枯れるもの、他物に絡みつくもの、みな自然にそうなっていた。争いも抵抗も見られず、全体に連帯性的な調和があった。その中にあって、嘗ての老婢たちのことなどを、どうして思い出すのだろうか。田宮はやたらに歩き廻った。歩き疲れると、湯につかった。
 廊下続きの別棟に、百畳余り
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