。慾情のみはまだ残ってるかも分らないが、それももういやだ。それからもし必要とあらば、この人に対するちょっとした看護婦めいた務めが……。それだけは果してやってもよい。
 だがそれも、つまりは私の精神的空想だったろう。
 彼はもう泣きやんで、呼吸も正しく、しっかりと歩いた。私はそっと彼の腕から手を離した。彼はぶるぶると震えた。私も震えた。だが寄り添いもせず、無言で歩いた。――遊びとしては真剣すぎるのだ。



底本:「豊島与志雄著作集 第四巻(小説4[#「4」はローマ数字、1−13−24])」未来社
   1965(昭和40)年6月25日第1刷発行
初出:「新潮」
   1949(昭和24)年1月
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2008年1月16日作成
青空文庫作成ファイル:
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