マ]いっしょに、小窓からとびこもうとしますが、足をまげることをしないものだから、その長い足がつかえて、はいれないんです。なんども、小窓にとびついてはおちるんです」
私はまた、らんまの小窓を見あげました。
「それから、いちばんずるいのは、山の小僧《こぞう》ですね。なんでしょう、あれは……。一寸法師《いっすんぼうし》みたいで、そして全身はまっ白で……。帽子をかぶってるのか、髪の毛がのびてるのか、わかりません。マントをきてるのか、身体《からだ》じゅう毛がはえてるのか、わかりません。靴をはいてるのか、はだしなのか、わかりません。ただ、全身まっ白なんですね。……ああ、来たんじゃありませんか」
私は小窓を見あげました。
「あんなずうずうしい奴《やつ》はありませんね。おおさむこさむ……歌でもうたうような調子で、けれど声には少しもださずに、ただそういう顔つきで、小窓からとびこんでくるんですよ」
私は小窓を見あげました。外は雪がふりしきっていました。
「とびこんできて、挨拶《あいさつ》もしなければおじぎもしないで、ひょいとそのへんの椅子《いす》の上にのっかるんです。そしてだまったまま、笑顔ひとつしないで、じっとしてるんです。あいつがはいってくると、部屋のなかがぞっと寒くなりますよ」
私はなんだか寒くなって、部屋のなかを見まわしました。
「こっちでじっと見ていてやると、そのままのこのこと部屋の隅《すみ》っこにかくれたり、布団《ふとん》のなかにもぐりこんだりします。そしてあたりがしいんとしてきて、耳をすますと、まだ外には、仲間がいくたりも、十も百も千も、たくさんいるらしんです。はいってくるのは一人ですが、外にはおおぜい待ってるんです」
私は耳をすましました。雪のふる音がきこえていました。
「ゆだんしていると、はいりこんできた奴《やつ》が、だんだん近よってきて、背中にぴったりくっついたり、どうかすると、襟《えり》の間から懐《ふところ》の中にとびこんできます。ひやりとしますよ……」
私はぞっとして、いきなり立ち上がりました。そしてらんまの小窓をしめました。
もうだんろの火はほそくなっていました。私はあらたに薪《まき》をくべました。そして、わきを見ると、正夫は肱掛椅子《ひじかけいす》の上に、うとうとと眠っていました。
しいんとした静けさで、雪のふる音だけがかすかにきこえています……。はて、今まで私に話しかけていたのは、いったい誰だったのでしょう。眠っているところを見ると、正夫ではないし、私自身のはずはないし、ほかにだれもいませんでした。
しんしんと雪のふってる夜ふけです。
私は立ち上がって、そっと正夫をだきよせました。正夫はうっとり目をひらいて、私を見てとると、きつくだきついてきました。それを私はやさしくだきしめてやりました。
だんろの火がぱっともえたっていました。
底本:「豊島与志雄童話集」海鳥社
1990(平成2)年11月27日第1刷発行
入力:kompass
校正:門田裕志、小林繁雄
2006年4月29日作成
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