、小熊星座のなかの北極星のこと、次には、アンドロメーダ星座、ペルセウス星座、牽牛星《けんぎゅうせい》と織女星《しょくじょせい》、銀河《ぎんが》のこと、彗星《すいせい》のこと、そのほかいろいろのことを話しました。そして私がびっくりしたのは、正夫が空の星の図を、名前はわからないでもよく知ってることでした。
「さびしい時には星をみるがよいと、何かで読んだことがありました。それで僕はよく星をみてるんです」
 正夫はそういって、でもさびしそうにほほえみました。父も母も小さい時になくなって、正夫は一人者なので、小父《おじ》さん夫婦のところにひきとられてるのです。
「星をみてると、ほんとにいいんです。だれか親しいやさしい人が、こちらをじっと見ていてくれるような気がしますよ」
 それから正夫は、またさびしくほほえみました。
「冬になると、星の見えることが少ないからつまらないんです。それに、こんなに雪のふる晩は、急にさびしくなることがあります。だれか今にも来そうなんです。僕がよく知ってる人だが、どんな人だかはわからない、そういうへんな人が、やって来るような気がしますよ」
 私はだんろに薪《まき》をくべて、さかんにもやしました。あまりあつくなると、らんまの小窓を少しあけました。外には雪がふりしきっていました。
「でも、そんなへんな人でなく、おもしろいものが、ほんとにやって来ることもありますよ」
「どんなものが……」と私はたずねました。
「いろんなものです。鳥や獣《けだもの》や、それから……。あんな小窓をあけておくと、火にあたりにくるんでしょうね、狐《きつね》や狸《たぬき》がとびこんでくることもありますよ」
 私はらんまの小窓を見あげました。正夫は話しつづけました。
「それよりも、面白いのは鳥ですよ。いつだったか、部屋いっぱい鳥だらけになったことがあります。雀《すずめ》がとびこんできました。頬白《ほおじろ》がとびこんできました。つぐみがとびこんできました。山鳩《やまばと》がとびこんできました。烏《からす》がとびこんできました。そのほかいろいろな鳥が、次から次にとびこんできて、部屋いっぱいにならびました。ふしぎなことには、どれもみなだまってるんです。目ばかりぱちぱちうごかして、なき声は少しもたてないんです。そしておかしいのは、鷺《さぎ》ですよ みんなと[#「鷺《さぎ》ですよ みんなと」はマ
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