すけれど……」
赤ん坊なんかだいているへんな巡礼でしたけれど、その赤ん坊の着物が柿の色と同じようなので、私はなんだか泊めてやりたい気がしました。
正夫も同じ気持ちだったのでしょう。小父《おじ》さんをさがしに家のなかにかけていって、まもなく戻ってきました。
「泊ってもいいんだって……」
巡礼の女は、うれしそうにおじぎをしました。
「それでは、夕方まいりますから……」
そして出ていきました。
私と正夫は目を見合わせました。どうもへんな巡礼なんです。
「僕が見てきましょう。へんだなあ……」
正夫が巡礼《じゅんれい》のあとをつけていったので、私は一人でぼんやり夢想《むそう》にふけりました。
ながい時間がたったようでした……正夫が戻ってきました。巡礼の赤ん坊をだいてるんです。にこにこ笑っていました。
「おかしな女ですよ。赤ん坊をわらのうえにねかしといて、自分はたんぼのなかにはいりこんで、落穂《おちぼ》をひろいはじめたんです。だんだん向こうへ遠くへいっちゃうんですよ。僕この赤ん坊がかわいそうになったから、だいてきてやりました」
「どれ、かしてごらん」
私はその赤ん坊をだきとりました。赤ん坊はまだすやすや眠っていました。ふうわりと軽くて、まるで綿のようで、頬《ほほ》をつついてみると、つるつるしてやわらかで、かすかに乳《ちち》の匂《にお》いがしていました。
けれど、あんまり軽くて手ごたえがないので、やがて心配になりました。正夫といっしょに、巡礼の女をさがしに行きました。
秋の日がいちめんにてっていました。見わたすかぎり、野山《のやま》は黄色く、とりいれのあとのたんぼはくろずみ、空は雲一つなく晴れわたっていました。
ピーヒョロヒョロ、ピーヒョロヒョロ……。
とんびの声がします。一羽のとんびが、空たかくゆったりと舞っているのです。
向こうのたんぼのなかに、五六人の村人たちが、巡礼の女をとりまいて、何やら大声をたてていました。そしてみんな、空をあおいで、とんびを見てさわいでいました。私も見あげました。よく見ると、たくましいとんびで、足に何か赤いものをつかんで大きく円をえがいてとんでいます。ピーヒョロヒョロと、さもうれしそうにゆったりと舞っているのです。私は村人たちの方へやっていきました。
近くまで行くと、私の方を見て、巡礼《じゅんれい》の女が、いきなりかけだし
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