よる直観的洞察力をしばしば示した。
些事を言えば、大戦前、支那事変だけの頃、彼は自宅の庭にりっぱな防空壕を作った。近所の人々は目を見張ったそうだが、吾々はつまらなく思った。彼は言った――君たちも今に防空壕を作るようになるよ。
果してそうなったが、然し、これは別に驚くほどのことでもない。なぜなら、これより少しく短見的ではあるが、時勢にうとい私でさえ、砂糖砂糖と騒がれてる頃、今に砂糖時代は過ぎてやがて食塩時代が来ると言ったものだ。ただ、そう言いながらも私は一向に食塩の用意をしなかったが、三木は言う前に防空壕を実際に作った。
私の心に深く残っているのは、ヒットラーに就いての三木の予言である。ドイツ軍がポーランドを席捲したあの頃の軍績華かな時に、三木は断言した――ヒットラーは自殺する。
ナチスの焚書事件以来、私はヒットラーを憎んでいたし、なにか無理なところと一抹の曇りとを彼に見出してはいたが、まさか自殺の予想はつかなかった。が、三木は、その自殺を断言し、常に説を変えなかった。――現在、ヒットラーが戦死したか、自殺したか、生きのびているか、未だ確証されてはいないが、いずれにしても自殺的末
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