三木清を憶う
豊島与志雄
高度文化国建設のため、今や新たな出発をなさなければならない時に当って、吾々は三木清の知性を想う。彼の広い高い知性、そこに到着することさえ容易でないが、更に、そこから出発することが出来たらと翹望されるのである。この思いは、彼の死を悼むの念を、私情的のみならず公情的にも深める。――だが私は茲に、主として私情的な面からの文を綴ろう。身近に感ぜられる三木清のことを語ろう。
三木の死は、私には驚愕であった。吾々の多くにとっても、驚愕であった。三木はつまらないことが機縁となり、豊多摩刑務所に拘置されていたのだが、間もなく釈放されるだろうと吾々は待望していた。あの元気な姿を今にも見せるだろうと、そう思う日が長く続いた。そこへ、突然に獄死の報なのである。
三木清死す――この電文を前にして、私は茫然とした。有り得べからざることのように感じた。だがとにかく、高円寺の三木宅へ出かけていった。
不在中、一友人の来訪があった。三木さんが亡くなられたので出かけたと、家人から聞かされて、その人は如何にも怪訝な面持ちで言ったそうである。――三木さんが亡くなったんですって、そんな筈は
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