ほどですか。」
「明晩までに八千金というのだ。」と平然たる調子でした。
「それだけの金が、うちにありますか。」
「この前やられたのでね、半分もあるまい。」
「では、どうなさるのですか。」
「どうにか、なるようになるだろう。家の者は皆、蔵の奥に隠れることになっている。わしは、人質になるかも知れない。」
「それでよいのですか。」
「よいもわるいもないのだ。そのため、今晩ゆっくり、御馳走を食べることにした。お前が帰って来たので丁度よかった。ただ残念だが、お前たちは、明日の朝出かけなさい。」
「本気でそう仰言るのですか。」
「どうも仕方がない。」
「お父さん。」
「お前はまだ若い。世の中のことが分るものではない。」
父親の落着いた平気な調子は、阮東の血を却って湧き立たせました。
彼はいきなりつっ立って、范志清に叫びました。
「おい、土産物を持出そう。あれが途中で役立たなくて、家に帰って役立つとは、僕は夢にも思わなかった。」
「よろしい、僕が引受けた。」
范志清は、杯を高く差上げ、一息にぐっと飲みほして、ふらふらした足どりで、室から出て行きました。阮東も出て行きました。
暫くすると、二人
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