に二階から下りて来た時、茶の間で恒雄は新聞を見ていた。そして孝太郎に「お早う!」と云いながら、やはり新聞から眼を離さなかった。
孝太郎も黙って別の新聞を手に取ってみた。その時彼は全く落ち付き払っている自分を見出して、少し意外な感じがした。
「何か面白いことがありますか。」と彼はきいてみた。
「何も無いようですね。何時も同じような記事ばかりで少し倦《あ》き倦きしますね。」
それから彼等は、早朝の新聞紙の匂いも暖い夏間に限るものだというようなことを話した。
孝太郎は暫くしてから座を立った。そして台所の方から出て来る富子に出逢った。彼は彼女のふっくらとした※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]《おとがい》と房々とした髪とを見た。
彼女は一寸立ち留って孝太郎を見た。それから急に快活な調子で、「あちらに行らっしゃい。今お茶を入れますから。」
彼は何故ともなくひどく狼狽した。そしてそのまま富子の後についてまた茶の間に帰った。
彼等はいつでも朝食の前に紅茶を一杯のむことになっていたのである。孝太郎はその朝何だか新奇な気持ちを覚えた。そして紅茶をのみ自分の手付がまずいように思えるのが気
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