この箱のような室内の一隅に、私はたまたま居合せていたに過ぎないからである。長い沈黙。正夫、立ち上って伸びをし、また腰を下して、卓上に顔を伏せる。円卓の正面の男、議一が声をかける。
[#ここで字下げ終わり]
議一――正夫君、退屈してるようだね。退屈は人生の最大の悪だ。そういう言葉を覚えてるだろうね。だが、まあいいや。君には、この前逢った時から、其後、一度も逢わなかったね。この前逢った時から其後一度も逢わなかったというのは、変な言い方だが、僕の実感としては真実なんだ。ずいぶん久し振りだった。変りはないかね。僕も……いや僕たちと言おう。文化会議の仲間で、ここにいるのは僕一人だが、一同を代表して言うよ。そこで、僕たちも、相変らずだ。但し、相変らずということが、停滞を意味するならば、相変らずではないと言い直さなければならない。会合毎に、一歩一歩前進してるからね。
――ところで、今日の会合で面白いことがあった。君も知ってる通り、僕たちの文化会議は、文化の在りかたを検討するのが主眼であって、政治問題には触れないことになっている。然るに、昨今の政治の状態は、その反動的な攻勢といい、逆コースの方向と
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