積らして、何等人工を施さない昔のままのものである。私はそれ等の雑木、その朽葉、その崖を、愛する。そして、崖下に降りてみると、痛ましく心を打たれる。崖の土は、長年の風雨に流されたらしく、樹木の根が半分露出して、それが絡まりもつれながら、崖の中に喰い入っている。残りの土壌を支え、且つ我身を支えているのだ。半ば傾いてるのもある。傾きながらも喰い入っている。すばらしい力と闘争だ。
 それらの樹木が、殊に落葉樹が、春になって芽を出し、葉を茂らし、それから颱風の季節を迎える時のことを、私は今から想像する。殊に、中に一本|水木《みずき》がある。幹に小孔をあけておけば、さんさんと水液がしたたり出て、支那では之を不老長生の霊水と称したという、あの珍らしい水木である。幹がすらりとして、枝振りが重々しく、落葉期の今でも、風が吹けばしきりに頭を振る。それが、崖の中途にしがみついている。
 それらの樹木のために、私は崖の土盛りを考えた。崖の高さ四五間ほどもあろうか。然し、きり立った崖でなく、崖先に余地もあるので、先端を約一間ほど築いて、緩勾配に高めていけば、太田の池の名残も幾分保ちながら、樹木の根はすっかり土で
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