色の壜のことはきれいに忘れていたのだ。
毒酒を捨てて私は軽い安心を覚えた。彼女の顔の白布を少しめくって、その額に接吻した。冷徹な感触のうちに彼女を伴い去る気持ちで、私はそこを出て行った。外套をつけ帽子をかぶり、店の方を通りぬけて、表戸から外に出た。
淋しい焼け跡の方へ私は足を向けた。西空に半月がかかっていた。深夜で人通りはなかった。立ち枯れた雑草の中に私は飛びこみ、そこに屈みこんで泣いた。――深い深い孤独の中に私は在ったのだ。
孤独感に甘えたのではない。寧ろ堪えきれなかったのだ。そして泣いてるうちに、次第に、自分のことが見えてきた。弓子のことも見えてきた。事件の全体も見えてきた。事件の外廓も見えてきた。――その時私が何を見たか、何を感じたかは、短い言葉ではつくせない。
――彼女をあのまま一人で打ち捨てておくべきではない。
その中心点へ思念は何度も戻った。私は立ち上り、決意の足取りで、彼女の家へ戻っていった。
電灯はついたままだった。私は表からはいっていった。彼女の室は取り散らされてるようだったが、それは私の気持ちの変化の故だったろう。彼女はじっと横たわっていた。髪の毛が乱れ
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