の下に隠して、立ち上った。――尿意を催したのだ。
見上げた彼女の眼が、魚のように見えた。
「ちょっと、用をたしてくる……。」
「あら、御不浄はこっちよ。」
そこの狭い汚い便所が頭に浮び、私はそれが嫌だった。
――死ぬなら、立派に死ぬのだ。
私は木戸をあけて、裏口の方へ出て行った。そこに少し空地があって、私は酔った時など、そちらで用をたす癖がついていた。
どこかに月があると見えて、ぼーっと明るかった。私は空地に行って、ふらふらしながら、長い小便をした。そして戻りかけると、よろめいて片膝をついた。大きな円っこい石がそこにあり、私はそれによりかかるようにして屈みこんだ。
――考えることなんか何があるものか。ただ悲しみに浸れ。そこにお前の人生がある。
悲しみとは、単なる感傷ではなかった。生をも死をも呑みつくすもの、つまり私の人生だったろう。――遠くに、夜汽車の走るらしい音が聞えていた。それからややあって、ふいに、鷄の鳴声がした。
私は夢からさめたように立ち上った。ズボンの塵を丁寧にはたいた。注意して服装をあらため、上衣にまでボタンをかけた。死に赴くためなのか、生に赴くためなのか
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