の方から言わなかったの。」
「言えると思って?」
「言えるさ。」
「愛のことじゃない……結婚のことよ。わたし貧乏だったわ。」
「貧乏でも……。」
言いかけて、私は口を噤んだ。なにか寒々としたものに突き当ったのだ。
「こんな話、もうやめましょう。わたし、今日は酔いたいのよ。」
私には、へんに酔えないものがあった。そしてその方へ、気持ちが落ちこんでいった。――そうだ、貧乏な者には、結婚のことなど言い出せないのかも知れない。貧乏な私が、今、彼女へ結婚のことを言い出したのも、長い躊躇の後だ。それならば、恋愛は……。貧乏な庶民には、結婚をよそにした恋愛など、猶更無理なことかも知れない。私にしても、恋愛よりは結婚のことばかり考えていたのだ。
なにかしんしんとした思いに沈んでいると、彼女は私の肩をとんと突いた。
「面白くしましょうよ。生きてる間は……。」
それでも、彼女の顔はどこか硬ばってるようだった。
「空襲の頃の方が面白かったわ。」
彼女は立ち上って、小箪笥の上方の小さな抽出の奥を探り、紫色の壜を取り出してきた。
「これ、なんだか分って?」
私は壜を受け取り、栓を開けようとした。
「
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