ちだった。思いがけない大雪だったので、青少年たちは表に飛び出して、思い思いにスキーを始めた。本物のスキー道具を持ち出してる者もあれば、臨時の道具を拵えてる者もあった。坂道はそういう人たちで賑わった。人通りの多い坂道は、やがて、雪が除かれ、或るいは融けて、スキーも出来なくなったが、子供たちはまだ諦めかねて、雪のある斜面に出かけていった。
 その子供たちの一群が、奇怪なものに魅せられたように、棒立ちになってしまったのである。斜面の下に吹き寄せられてる雪は、もうだいぶ融けて、じくじくと水づき、稀薄になっていたが、その中に、薄青い布地が拡がっている。布地はオーバーのようで、それが人間の恰好をしている。よく見ると、その人間の恰好には、黒い髪の毛がついており、反対の片端に、ゴム靴の足先がにゅっと突き出ている。
 わっと、誰からともなく彼等は声を立て、あわてて逃げ出し、近所のひとに異変を知らせた。
 それから大騒ぎとなった。雪の中から取り出されたのは、二十才前後の女の死体で、普通のスーツにオーバーをまとい、ゴムの半靴をはいていた。髪は毛先だけパーマをかけ、顔立は可憐な丸みを持っていた。警察に連絡がつ
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