とは、調子が合うのかも知れないが、それがどちらからも一図に心を寄せ合うと、これはどうにもいけないと私にも危ぶまれるのだった。彼は雀の話を彼女にもしてきかせた。彼女は何か心を打たれたようで、暫く考えこんでしまった。
四五日か一週間旅をしよう、と彼は如何にも呑気そうに云っていた。大丈夫ですかと彼女は尋ね、大丈夫だと彼は答える。お金のことらしい。そうしてもう相談がきまってしまった。これはめちゃだと私は思うのだった。そんな場合じゃあるまい。然し……漠然とした危懼が私を囚えていった。その危懼を打消すことで私は憂欝になった。
そこを出て、池のまわりを散歩するという二人に別れて、一人になると、私はなぜか首垂れて考えこんで歩いていた。あの二人を幸福にしてやりたい、勝手なことをしてる彼等ではあるけれど、真面目な仕事と生活とをなし得る彼等だ……そんなことを私は思い、漠然とした反撥心を世の中に対して懐いていた。社会の制度が重すぎるのではないか。
その夜遅く、彼が姿を現わした時、私はひどく悲しい気持になっていた。それは別離の悲しみに似ていた。
――旅に行くのか。
――行こうと思っている。
――死ぬ
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