予備隊だの、更には、世界各地から集まってくる軍備だとか戦争とかの報道。忌わしい坩堝だった。
伯母の顔は日焼けがして、都会人の皮膚の幾倍もの厚さをしていた。その額に深い皺が寄って、土地の起伏を思わせるものがあった。
その額の皺、その土地の起伏、そしてそこの農民たち、生活の困苦窮乏が表面に見えてはいるが、掘り返したら、新らしい清らかなものが見出せないであろうか。
あの青服の少女も、農家の娘だった。
その少女の幻影が、なぜかくも身に親しいものとなったのか、十内自身にも分らなかった。贖罪の心からか、神を想う心情からか、そのようなことは十内の思惟を超える事柄だったが、とにかく、あの少女の幻影を安らかに埋めるには、伯母の膝許が最も好適の地と感ぜられた。
十内が寄寓してる家の近くで、この頃、毎日早朝、きまって五時に、太鼓の音が聞えた。神社か、神官の家か、または個人の邸宅か、それは分らなかったが、みそぎ祓いでもしているのであろうか、ドーン、ドーン、と初めは緩かに、それから次第に急に、ドンドン、と続き、それが三度ばかり繰り返されるのである。何の調律もないただ単調なだけのその音が、へんに十内の心
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