覚が、まだ残っていた。
あの顔、青服の少女の顔が、また見えてくるかも知れなかった。
十内が寄寓してる家から、電車通りへ出る道筋の一つに、神社の境内を通過してゆくのがあった。少し遠廻りではあるが、静かだった。裏手からはいって、立ち並んでる大木と社殿との間を通ると、神社の正面に出る。石の鳥居がある。そこから一段低くなってる広地は、縁日などにいろんな催し物が行われる場所だが、ふだんは、木影深くひっそりとしている。その外れに、また石の鳥居があって、そこから急な石段となる。二十段ばかり降りると、ちょっと平地となり、下にまた二十段ばかり続く。
上部の石段を降りて、平地で息をつき、それから下部の石段を降りかかった時、十内は息をのんだ。下方の空間に、ぽっかりと、あの少女の顔が浮き出していたのである。
もっとも、それが最初ではなかったようだ。夢ともうつつともなく、前にも一度見たことがある。夜明け頃、まだ眠ったまま、なにか考えごとをしている気持ちだったが、心の眼には、仄白い丸いものが映っていた。それが静止してるとも廻転してるともつかず、ただ明暗の差だけがちらちらしているうちに、額から、眼、鼻、口と
前へ
次へ
全15ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング